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ウミガメを見守る

近年奄美大島では、ウミガメシュノーケリングの人気が高まっている。サンゴ礁の浅瀬で甲長30〜50cmの若いアオウミガメが、のんびりと海草を食む姿やゆっくり休息する姿をじっくり観察することができる。以前は警戒心が強く近づくと逃げてしまう個体が多かったが、食用に獲られることもなくなり個体数も増加傾向にある。奄美大島ではサンゴ礁だけでなく、各漁港にも住みついている個体もみられる。2015年に奄美大島で産卵したアオウミガメに発信機を装着し衛星追跡調査をしたところ、八代海や紀伊半島、三宅島へと移動したことが確認された。母ガメたちは、繁殖期が終わると本土の摂餌海域で過ごしているようだ。今夏、佐多岬のグラスボートに乗船した際も数個体のアオウミガメを観察することができた。アオウミガメは、種子島、屋久島、小笠原諸島以南で産卵している。

奄美大島(加計呂麻島や請島、与路島等属島を含む)では主にアカウミガメとアオウミガメが産卵する。アカウミガメの産卵回数は減少傾向が続き、数年前からアオウミガメが産卵優占種に置き換わった。北太平洋に生息するアカウミガメの産卵地は日本のみで確認されていて、その中でも半数以上が鹿児島県で産卵している。鹿児島県は昭和63年にウミガメ保護条例を制定しウミガメ保護に取り組んでいるが、2013年をピークに産卵回数は減少傾向がみられる。奄美大島で産卵したアカウミガメに発信機を装着し衛星追跡調査をしたところ、産卵後は東シナ海中央部の摂餌海域で過ごしていることが明らかとなった。アカウミガメは水深100m以上潜り、海底の甲殻類や貝類を食している。殻を砕く強力な顎が発達しているため頭部が大きい。この海域は漁業活動が盛んで、アカウミガメが混獲されているという懸念もある。ウミガメの保全は産卵する砂浜や繁殖海域だけでなく摂餌海域の保全も重要となっている。

奄美大島にはウミガメが産卵する砂浜が150以上点在し、陸路のない浜も多く、関係機関や地域団体や地域住民により調査が行われている。当研究会でも毎年ゴールデンウィーク前後から8月までウミガメの産卵調査を行っている。時には梅雨の雷雨や梅雨明けの灼熱地獄の砂浜を歩き、浜によっては船から泳いで上陸し、産卵痕跡を記録している。これらの調査は、奄美大島だけでなく県内各地、全国の砂浜で様々な団体や地域住民によって実施されており、年に一度、日本ウミガメ会議で集計され報告されている。今年は奄美大島では、上陸回数は772回(アカウミガメ174回、アオウミガメ428回、種不明170回)、産卵回数は546回(アカウミガメ111回、アオウミガメ335回、種不明100回)というデータが得られた。

アオウミガメ生息数の増加とともにストランディング(漂着)も増えてきている。奄美大島では今年13個体(アオウミガメ8個体、アカウミガメ3個体、タイマイ2個体)のストランディングがあった。うち7個体は解剖したが、胃腸内に海藻、海草があり、死亡する直前まで採食していたことがわかった。胃腸内にほとんど海ごみ等はみられず、何らかの原因で呼吸できず溺死したようであった。

フィールド調査を重ねると様々な課題に直面する。他生物によるウミガメの卵や子ガメの採食もそのひとつで、奄美大島では、ツノメガニやアカマタという無毒の蛇、リュウキュウイノシシによる採食がみられる。特にリュウキュウイノシシは産卵巣のすべての卵を採食してしまうため影響が大きく、今年も奄美大島全体の22.7%にあたる124巣の産卵巣が被食を受けた。被食が恒常化した浜が多く、その地域の産卵個体群の減少も懸念されている。

当研究会では産卵する母ガメや自然環境下で孵化、脱出する子ガメたちの力強さを多くの方に観察してもらい、ウミガメや産卵環境の保全への理解を深めてもらうため、ウミガメミーティングという講話&観察会を毎年実施している。今年は新型コロナウイルス感染拡大防止のため開催を見送ったが、調査と併せ来年以降も続けていきたい活動である。

興克樹(おきかつき) 奄美海洋生物研究会会長

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1971年奄美市(旧名瀬市)生まれ。専修大学文学部卒。名瀬市役所、奄美海洋展示館勤務を経て独立。ティダ企画有限会社代表取締役。奄美海洋生物研究会会長。奄美クジラ・イルカ協会会長。鹿児島県希少野生動植物保護推進員。サンゴ礁保全やウミガメ類・鯨類の繁殖生態、外来水生生物に関する調査研究に取り組んでいる。

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