東京大学大気海洋研究所(千葉県柏市)は7月、鹿児島県奄美大島に設置した研究拠点で気候変動に関する調査を本格始動する。地球温暖化に伴う日本の亜熱帯化を見据えて、原生的な自然が残る亜熱帯の奄美での調査を基礎データに、温暖化による台風の強大化などへの影響を分析し、気象災害を予測する技術の高精度化につなげる。研究と並行して、地元の高校生を支援する教育分野にも力を入れる。
研究拠点は2021年度から、瀬戸内町須手の東大医科学研究所奄美病害動物研究施設内に設置の準備を進めた。専任講師1人を配置し、22年度中に准教授1人の着任を予定している。
7月ごろから研究を本格化し、まずは津波の高さなどに影響を及ぼし、海洋生物の生息や海流研究の基盤となる海底地形の調査に着手。サンゴの骨格情報から長期的な海水温の変化を調べ、生息している海洋生物の種類など、海水のDNA分析も踏まえて海洋生態系の現状や変化を把握する。
奄美の調査を基に、岩手の研究拠点や研究所本部の研究者とも連携して、最先端技術を活用した気候の変化や気象災害を予測する数値モデルの構築を進める。
教育分野では本年度、県立与論高校(与論町)と連携して、生徒が取り組む探求活動へアドバイスや授業を行っている。地元の県立古仁屋高校でも出前授業などを計画。岩手で進める人材育成の地域連携プロジェクト「海と希望の学校イン三陸」の奄美版を立ち上げる方針だ。
同研究所の横山祐典教授によると、亜熱帯地域の気候や環境の研究は世界的に進んでおらず、「気候の変化を捉えるため、奄美でベースラインをつくりたい。研究だけでなく、教育にも力を入れる」と抱負を語る。
横山教授は2009年以降に喜界島で見つかった国内最大級のハマサンゴの発見者として知られ、奄美との縁は深い。約400年にわたって成長したサンゴの骨格情報から過去の海水温の変化を分析し、地球温暖化のメカニズムを探った。
「奄美は世界的に見ても海洋学的、気象学的にユニークな場所。研究成果を地元の人と共有して、自然に対する理解を深めていきたい」と話した。
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