奄美大島、徳之島の世界自然遺産登録1周年を記念した「アマミノクロウサギシンポジウム」(大和村など主催)が12月10日、鹿児島県奄美大島・大和村防災センターであった。奄美大島と徳之島だけに生息するアマミノクロウサギについて、島内外の研究者らが生態や交通事故など保護上の課題のほか、クロウサギによる農業被害など多角的に報告。同村で2025年度に開館予定の「アマミノクロウサギ研究飼育施設(仮称)」について、「生態を解明して被害対策につなげて」「世界に誇る島の自然を発信できる施設に」と新たな拠点の誕生に期待を寄せた。
クロウサギ研究飼育施設は、同村が環境省奄美野生生物保護センターに隣接する思勝の村有地に整備を計画。交通事故などで傷ついた個体を保護し、治療しながら生態の研究や来訪者が観察できるように展示を行う。シンポジウムは開館に向けてクロウサギについて理解を深め、保護の意識を高める目的で開催。約70人が来場した。
環境省奄美群島国立公園管理事務所の鈴木真理子さんは、クロウサギを襲うマングースの駆除や野生化した猫(ノネコ)の捕獲など保護対策が進んだことで、生息状況が回復する一方、道路で車にひかれるロードキル(交通事故死)や、タンカン樹皮をかじる農業被害が増えていると課題を指摘した。
沖縄大学客員教授の山田文雄さんは「大陸で絶滅したが、奇跡的に島で生き残った。ウサギの仲間のルーツや進化を考える上で重要」と価値を強調。保護に向けて森林保全や外敵の侵入防止、ロードキルへの注意を呼び掛けた。
東京農工大学教授で獣医師の田中あかねさんはクロウサギの目の構造から、本来は暗闇が苦手で、赤やオレンジなど人にはよく見える色が識別できないと説明。ロードキル防止に向けて、クロウサギが警戒する猫の目のように光る反射材を事故多発地点に付けるなど、対策を提案した。
写真家の浜田太さんはクロウサギの子育ての様子など貴重な映像を紹介。「クロウサギは奄美のアイデンティティー。貴重な生き物たちと手を取り合って未来をつくっていくしか道はない」と訴えた。
伊集院幼村長を交えたパネルディスカッションがあり、「奄美でより専門性の高い研究ができると期待している」「クロウサギを目玉として見せるだけでなく、人との共存を考えるスペースであってほしい」など新拠点への期待や要望の声が上がった。
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