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泉芳朗「島」に新発見 自筆原稿に残る幻の一節 「レ・ミゼラブル」引き合いに

奄美群島(鹿児島県)の日本復帰を主導した詩人・泉芳朗の代表作「島」(1949年)の自筆原稿が、関東の親族宅で見つかった。現在は芳朗のおいにあたる泉宏比古さん(64)=神奈川県=が所有している。原稿にはロマン主義フランス文学「レ・ミゼラブル」を引き合いに、公表された詩にはない一節が含まれている。奄美の復帰運動に詳しい志學館大学の原口泉教授(75)は「民族詩人、民衆詩人である泉芳朗の世界への意識や、作家としての視野の広さが伝わってくる」と語った。

南海日日新聞【写真】泉芳朗のおい・宏比古さんが発見した「島」の自筆原稿=13日、神奈川県

宏比古さんの父宏尚さん(95)は、芳朗の末弟。自筆原稿は、宏比古さんが茨城県の実家を整理している際、泉芳朗の日記や未発表の小説、詩などとともに発見した。

「島」は、「私は 島を愛する/黒潮に洗い流された南太平洋のこの一点の島を/一点だから淋(さび)しい/淋しいけれど 消え込んではならない」で始まり、「わたしはここに生きつがなくてはならない 人間の燈(とう)台を探ねて」と結ぶ芳朗の代表作。

同作は自筆原稿と表現が違う部分もあり、刊行にあたって推敲(すいこう)されたとみられる。問題の一節は、発表されている詩の2、3節目、「そして人々は久しい愍(あわれ)みの歴史の頁々に/かなしく 美しい恋や苦悩のうたを捧(ささ)げて来た/わたしはこの島を愛する」と「南太平洋の一点 北半球の一点/ああ そして世界史の この一点」の間に存在。

「そして私は思ひ出す/かつてイギリス海峡の孤島ゲルンシーで/人類の悲涙を絞り切つて書き綴(つづ)られた レ・ミゼラブルを/敗戦国民ビクトル・ユーゴーが ぼろぼろの余命を託して探しあぐんだものは何であつたらうか/人間ジヤンバルジヤンの上に立ちのぼる不可思議の焔(ほむら)/人間の烽火 人間の燈台よ」とある。

ジャン・バルジャンはフランスの詩人で作家のユーゴーが1862年に執筆した「レ・ミゼラブル」の主人公。貧しさと社会の理不尽さから世の中へ深い憎しみを抱いていたが、やがて司教の慈愛や弱い立場の女性らの純粋な愛に触れて目覚め、人類愛の具現者となっていく。

原稿と同時に見つかった芳朗の小説「蕃衣(ばんい)を着て」(楠田書店出版の「奄美のガンジー 泉芳朗の歩んだ道」に収録)は、日本統治時代の台湾で1930年に起こった先住民の蜂起事件「霧社事件」をモチーフにしている。

「島」の発表の際、この一節がどのような経緯で削除されたのかは不明。原口教授は「芳朗先生が世界的な視野を持っていたことがよく分かる資料だ」と話した。

 

 

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1946年(昭和21年)11月1日に奄美大島で創刊された奄美群島を主要な発行エリアとする新聞。群島民挙げて参加した日本復帰運動をリードし、これまでにシマの文化向上・発展のための情報を伝えてきた。
現在も奄美群島の喜界島、奄美大島、加計呂麻島、請島、与路島、徳之島、沖永良部島、与論島の8島を発行対象とし、その地域のニュース・生活情報を提供。現在、奄美出身者向けに奄美のニュース(本紙掲載)を月1回コンパクトにまとめた情報紙、「月刊・奄美」も 発行している。

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