旧暦8月15日に当たる17日、鹿児島県与論島では「与論十五夜踊」に合わせて行われる十五夜の伝統行事「トゥンガモーキャ」があった。「トゥンガトゥンガ」の掛け声とともに、子どもたちが家々を回って玄関先に供えられたお菓子を集めた。
与論町茶花の与論銀座通り周辺では午後4時すぎから、たくさんの子どもたちがお菓子を入れる大きな袋を手に、友達や保護者と商店や民家を一軒一軒歩いて回った。
両親と一緒にトゥンガモーキャに参加した女児は「お菓子を集めるのは楽しい。30個まで集めたい」と笑顔を見せた。
「トゥンガトゥンガ」。夕方から子どもたちの元気な声が響き、街がにぎわうトゥンガモーキャ。しかしこれは、かつては見られなかった光景だ。
地元住民によると、昔は子どもたちがお供え物の「プチムッチャー(よもぎ餅)」などを家主に見つからないよう盗み、竹の棒に刺して持ち歩いた。行事は日没後、月が出てから子どもたちだけで行うのが慣例だったという。
大人たちに気付かれてはいけないため、お供え物には物音を立てず静かに近寄る。当然「トゥンガトゥンガ」の掛け声はなかった。
「盗む」やり方を経験しているのは主に50代以上。40代以下の人たちが記憶するトゥンガモーキャは、現在と同じ、家主からお供え物を「もらう」形が主流だ。
同町茶花の飲食店勤務、栽原三千代さん(59)は「私たちの時代はこっそり取るのが普通。盗んだ餅を刺した竹が重さで折れることもあった」と話し、「当時はおやつを一度にたくさん食べられる機会は少なかったから、十五夜は年に一度の楽しみだった。いまでも行事の日はわくわくする」と笑顔を見せた。
やり方が変わったのはなぜか。与論郷土研究会の麓才良会長(76)によると、1970年代ごろから行事に対する学校教育の影響が強まったことが主な背景。以前はモーキャ(儲け)ではなく、「トゥンガヌスドゥ(盗む)」と呼んでいたが、盗むことや夜間外出は良くないとの考えから、行事名や時間帯、お供え物の集め方などが次第に変化していったという。
親世代とやり方が異なる地元の女性(22)は「子どもの頃、学校では『トゥンガトゥンガ』を言うこと、お礼をすることを教わったが、親からは『そういう行事じゃない、言わなくてもいい』と聞かされた」と話す。
「子どもたちは神の使いと言われる。本来はこっそり盗むこと自体に豊作を祈願する意味がある」と麓会長。行事のやり方が変化したことについて「時代の流れだから仕方がない」としつつ、「時代に合わせて、祭りの本質をどのように次世代に伝えていくかが課題」と語った。
かつてを知る人たちは「盗みに行くと水を掛けられたり、丸めて餅に見立てた牛ふんつかまされたりといたずらもされた」「年に一度の無礼講。餅だけでなく、庭のミカンやグアバもまとめて盗んだ」など目を輝かせて思い出話に花を咲かせる。「今はあの頃のような風情がない」と寂しがる声も聞かれた。
一方、明るい時間から行うことで「小さい子どもでも安全に参加できる」「行動範囲が広がった」「大人も付き添って一緒に楽しめるようになった」との意見もある。
「盗む」から「もらう」へと変容したトゥンガモーキャ。17日、与論島内はお菓子を集めに駆け回る元気な子どもたちの笑顔であふれた。形は変われど、世代を超えて多くの人たちに親しまれる与論の伝統行事だ。
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