自然

水辺の環境を再生! 水生生物のパラダイス実現

しーまライターの三田もも子です。今回から3回にわたり、奄美大島 大和村にある広大な森林公園「奄美フォレストポリス」についてレポートします。

→第2回 世界遺産の森の中にあるピッツェリア「マテリヤ茶屋」
→第3回 「奄美フォレストポリス」のバンガローを“デイユース”で楽しむ!

最近、ヤゴやゲンゴロウ、イモリなどの水辺の生き物を見かけたことはありますか?

「そういえば、子どもの頃は見かけることはあったけど……」という方も多いのではないでしょうか。

大和村では2021年8月から、世界自然遺産登録を記念して、寄付がすべてふるさと納税の対象となる「ガバメントクラウドファンディング」を行い、700万円の寄付を募りました。その目的は、世界自然遺産エリアに隣接する「奄美フォレストポリス」の水辺の広場を再整備し「生物多様性」を体験できる公園をみんなで作るためでした。

今回は、なぜ大和村が多額の寄付を集め、水辺の広場を再整備しようと考えたのかについてご紹介します。

かつて「福元」という集落の田んぼだった水辺の広場

大和村の東側には、奄美群島で最高峰となる湯湾岳があります。標高は694メートルで、その周辺は奄美群島国立公園の特別保護地区になっており、厳重に保護されています。

湯湾岳を下ると、標高350メートルあたりに「奄美フォレストポリス」が広がる福元盆地があります。現在はバンガローやキャンプ場、アスレチックなどで遊べる森林浴公園ですが、かつては福元(ふくもと)という集落がありました。

「大和村史」によると、福元集落は、江戸時代中期に田畑佐文仁(たばたさぶんじ)によって新田開拓されたものの失敗に終わり、幕末に豪族であった和(にぎ)家が大掛かりな開発を行い、サトウキビの耕作地として人が住み始めたと記述されています。

福元村の人口は、1870年(明治3年)に32戸で98人も住んでいたそうですが、景気や県道開設の影響を受け、自然廃村。戦後、再び入植者がいたようですが、交通、教育、医療の問題により1962年(昭和37年)には全ての入植者がいなくなりました。

この跡地に、1991年(平成3年)から「奄美フォレストポリス」の開発・整備が始まり、島民だけでなく、島外からも人が訪れるほどの人気スポットとして今に至るわけですが、福元集落に人が住んでいた頃に水田だった場所が、ちょうど現在の水辺の広場にあたります。

 

なぜ、大和村は水辺の広場を再整備することにしたのか?

水辺の広場は「奄美フォレストポリス」の敷地内で、水生の動植物の観察や自然体験学習を行える場所としてオープンしました。しかし、近年の台風や豪雨、またその広大さのために、水路が詰まったり、池の中の水草の管理が追いつかなかったりして、だんだん池らしい状態を維持することが難しくなっていました。

実は現在、奄美大島にはほとんど田んぼがありません。昔は集落の近くに田んぼやため池がありましたが、サトウキビの耕地拡大や減反政策のため、昭和40年以降、そのほとんどが埋め立てられました。

田んぼやため池がなくなったということは、そこに住んでいた生き物たちもいなくなるということです。かつては身近だったイモリやゲンゴロウなどが最近はかなり稀になってしまいました。

生き物の固有種や亜種が多い奄美。もちろん昆虫や両生類などの水生生物も同様です。水生生物の生息地が少なくなった島内において、水辺の広場は水生生物にとって生き残ることができる貴重な場所でした。そこで、近年、「奄美フォレストポリス」の水辺の広場の環境が、あらためて注目されるに至りました。

 

どんな再整備が行われているか

この水生生物の環境がとても貴重なものだということを理解してくれる方々に恵まれ、クラウドファンディングは、締め切り直前に目標を達成。そして2022年4月より整備工事を開始しました。

はじめに着手したのは、トンボの池とホタルの池の環境整備です。まず、2つの池の草を刈りました。時には腰まで水に浸かり、刈った草を運びます。奄美の春から夏の草の成長は凄まじく、あっという間に成長してしまうので、ヘドロとともに水草の根っこも取り出しました。重機が入れない場所は、大和村職員が人力で作業を行いました。

次に、池のまわりのシュロガヤツリという外来種を駆除しました。この植物は繁殖力が強く、在来植物を脅かします。こちらも根っこごと抜き取り、6トンにもなったそうです。

そして出来るだけ詰まりにくくするために、グネグネの水路の形状を、直線に造りなおしました。これには重機が大活躍!

最後に、小川から水を取り込む取水口に詰まっていた土砂を重機で取り除き、パイプを入れ直し、土砂がつまりづらい形状に変えました。

また、重機が入っている池とは別に、草を取り除いてトンボの産卵できる開放水面を広げる作業が行われており、私も参加することにしました。

季節は5月と6月。奄美の初夏の暑さと、梅雨の湿度の中という過酷な状況。正直、かなりの重労働でしたが、今さっき開いたばかりの水面に早速トンボが産卵している姿を見るだけで、頑張ろうと思えました。

 

再整備をして2ヶ月、その後の変化

7月中旬からトンボの繁殖期になり、工事は一旦終了。そして、9月上旬には関係者による現地調査が行われました。

再整備した池は水深もあり、水生生物にとって良い状態となっていました。嬉しいことに、今まで大きな植物に覆われ伸びることができなかった在来の水草が繁殖し、10年以上ぶりにその姿を現わすものまでも!

また、岸辺の水草をアミですくうと、トンボの幼虫であるヤゴがたくさん! トンボは種類によって成長時期は様々で、数ミリほどの小さいヤゴから、小指の先ほどの大きいヤゴまでいました。(※このエリアでの動植物の採取には許可が必要です)

見渡してみると、チョウチョが水を飲んでいたり、カエルが鳴いていたり、そして野鳥がエサ場として憩っています。半年前には想像できないほど、いつの間にか、素敵な水辺になっていました。

大和村の挑戦はまだまだ続きます。

みなさんもぜひ一度、水辺の広場を散策してみてください。普段出会うことがない水生生物と出会えるかもしれません。

次回は、奄美フォレストポリスの「マテリヤ茶屋」について、来月レポートします。どうぞ、お楽しみに!


奄美フォレストポリス・水辺の広場
〒894-3212 鹿児島県大島郡大和村大字名音1476
電話:0997-58-3166
公式サイト:http://www.amamiforest.com/
水辺の広場の見学は自由

㈱しーま 編集部ライター 三田もも子

投稿者の記事一覧

新潟県十日町市生まれ。地方紙記者、農業、バックパッカーなどを経て、旅行雑誌や旅ガイドシリーズの編集に携わる。
同時に、野外フェスの企画運営や、NPO法人で海外教育支援、震災復興支援を行う。2016年4月から奄美大島に移住。
奄美の文化を紹介する「ワンダーアマミ」を定期発刊。ブラジリアン柔術と秋田犬が好き。

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