【特集】世界自然遺産登録

サンゴの大産卵

闇夜に舞う桜吹雪

毎年5月、6月の満月が近づくとソワソワと気持ち落ち着かない。サンゴの産卵をいつどこで観察するか、長期予報や海水温データ、潮汐表を眺めながら作戦を練る日々を過ごす。もう四半世紀もサンゴの産卵を観察し続けているが、毎年新たな感動や発見があり、なかなか止められない。困ったことにサンゴは、その年の海水温や日照時間等に左右され、満月の夜に産むわけでもなく毎年同じ潮で産むわけでもない。産卵日をある程度予測するものの、毎年的中しているわけではなく、要は産卵するまで粘り強く潜り続けているというのが現状である。

(大和村 国直)
今年も5月の満月から観察を始めた。昨年は大島海峡の樹枝状ミドリイシ群落は5月の満月4日後から一斉産卵を始めたが、今年は水温が低く産卵の気配も感じられなかった。そして6月に入り梅雨前線とにらめっこしながら、満月から観察を始めた。観察地は大和村国直のサンゴ礁。1998年に発生した大規模なサンゴ白化で壊滅したが、集落の方々に見守られて見事にサンゴが回復した海域だ。満月から2日後、やっと小規模な産卵がみられた。3日後にも小規模な産卵があり、4日後には枝サンゴやテーブルサンゴとよばれるミドリイシ属のサンゴの一斉産卵を観察することができた。

国直クシハダミドリイシ

国直クシハダミドリイシ

奄美大島では産卵シーズンの初期に複数種が同時に産卵する一斉産卵がみられる。サンゴの産卵(放卵放精)は、サンゴ表面にあるポリプとよばれるサンゴ個体から複数個の卵と精子の詰まったバンドルというカプセルが放出される。

国直オヤユビミドリイシ

国直オヤユビミドリイシ

バンドルは直径0.5mmほどの大きさでゆっくりと浮上し海面で弾け、他の群体から放出された卵や精子と受精し、幼生となって数日から数週間浮遊し、適地に着底しサンゴとして成長していく。

国直トゲスギミドリイシ

国直トゲスギミドリイシ

この日の夜は7種のサンゴからから次々とバンドルが放出され、海中にはあたり一面、淡いピンクが漂った。バンドルは独特の香り(一般的には臭いといわれる)があり、産卵のあった夜は、陸の集落にも香りに包まれる。風向きによっては、波打ち際にスリックと呼ばれるバンドルが帯状になったものが寄ってくる。

(加計呂麻島 実久)
国直の一斉産卵の余韻に浸りながら、翌日には加計呂麻島の実久に観察地を移した。実久のサンゴ礁は、2000年前後にサンゴを食べるオニヒトデが大発生し、サンゴが壊滅してしまった。その後サンゴが急速に回復し、大型の群体も多くみられる。今年は同時期に産卵すると予測し、20 時に現地に到着するとすぐに産卵が始まった。

実久ハナガサミドリイシ

実久ハナガサミドリイシ

20時台に産卵するハナガサミドリイシという薮状のサンゴだ。30分ほどで産卵は一旦終わったが、その他の多くのサンゴの表面にも既にバンドルがセットされていてピンク色がかっている。

船で小休憩したあと、22時に再度潜水を開始した。22時30分頃から次々と産卵が始まった。樹枝状のトゲスギミドリイシ。指状のコユビミドリイシ。オヤユビミドリイシ、タマユビミドリイシ、撮影も追いつかない。

実久コユビミドリイシ

実久コユビミドリイシ

22時50分には、大型のテーブル状のハナバチミドリイシの産卵が始まり、海中に無数のバンドルが波に揺られながら海中を漂う。産卵ピーク時には、四方の視界が遮られるほどの大量のバンドルに囲まれた。

実久ハナバチミドリイシ

実久ハナバチミドリイシ

桜吹雪のようにバンドルが舞う息を呑むような美しさ、サンゴの力強さに圧倒された。この瞬間を出会えたことに感謝した。翌日も友人たちと実久で産卵を観察し感動を共有した。
サンゴの産卵は、海水温の上昇とともに南の方から始まる。沖縄や奄美群島各地の友人と産卵情報を交換することも楽しみのひとつである。そして、今年の産卵はまだ終わりではなく、これから9月にかけて様々な種類のサンゴが産卵していく。どのような産卵の瞬間に出会えるか楽しみは続く。

興克樹(おきかつき) 奄美海洋生物研究会会長

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1971年奄美市(旧名瀬市)生まれ。専修大学文学部卒。名瀬市役所、奄美海洋展示館勤務を経て独立。ティダ企画有限会社代表取締役。奄美海洋生物研究会会長。奄美クジラ・イルカ協会会長。鹿児島県希少野生動植物保護推進員。サンゴ礁保全やウミガメ類・鯨類の繁殖生態、外来水生生物に関する調査研究に取り組んでいる。

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