奄美群島から沖縄諸島にかけての琉球弧で1800年代末期まで行われていた「針突(ハジチ)」と呼ばれる入れ墨の習俗について理解を深めるトークイベント「針突(ハジチ)のこころ―発生・民俗・今」が11月3日、宇検村湯湾の「元気の出る館」で開かれた。住民ら約60人が参加。かつて琉球弧の女性の手に刻まれた入れ墨「ハジチ」を通し、人と自然とマブイ(霊魂)とが渾然一体(こんぜんいったい)となった島の人々の「こころ(思想や考え方)」などについて、理解と学びを深めた。
奄美大島の世界自然遺産登録1周年の記念企画として、同村企画観光課が主催。パネリストとして「ハジチ 蝶人へのメタモルフォーゼ」の著者である喜山荘一氏、瀬戸内町立図書館郷土館学芸員の町健次郎氏、古層作家の谷川ゆに氏、植物染料でハジチの文様を肌に描く作家の仙田綾乃氏の4人が登壇した。
ハジチには、成人の通過儀礼や魔除けなどの意味があり、島や集落ごとによって文様が異なる。1899年、明治政府が「悪習」として入れ墨禁止令を敷いて以降、風習は途絶えた。
トークセッションでは、パネラーがそれぞれの見地からハジチを解読。奄美大島と徳之島で見られる手首の文様に関し、喜山氏がマブイの化身とされるチョウと人の生命の重ね合わせだとの見解を示す一方、町氏は腹骨板の突点数の類似性などからウミガメがモチーフになったとの仮説を説明した。
会場では、仙田氏指導の下、水で落ちるペンを使ったハジチの疑似体験も行われた。同村の向山ひろ子さん(58)は「ハジチの話を聞くまでは入れ墨に対して『怖い』という印象だったが、実際に描くと心が弾み、昔の人はこれを『喜び』や『誇り』としていたように感じた」と話した。
喜山氏は「島の人が自然や霊魂とどのようにつながっていたか理解するツールとして、ハジチが後世に語り継がれることを願う」と語った。
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