みちくさ312
奄美の人々にたくさんの恵みをくれた、ありがたい樹木。
本場奄美大島紬の重要な染料材で、島中のいたる所に生え、数も多いのだが、需要の多い時代には盗伐騒ぎもあった。
高さ5メートル前後。常緑で花や樹形が美しいので庭木、公園樹として植えられ、乾燥、大気汚染に強いため、街路樹としも重宝されている。
和名は、枝先に集まる葉が車輪状に付き、花がウメ(梅)に似ることから。
奄美では方言名のテーチギ、テーヂギの方が通りがいいだろう。
咲き始めは白かった蕊(しべ)の付け根が、時がたつと紅色に。その変化が華やかさを添えている。
子ども時代には、径1センチほどの黒熟した果実をよく食べていたので、今でも時々口にしてみるのだが、中身はほとんどが硬い種子。わずかな果皮は渋味だけで決しておいしいものではない。
生える場所によって葉の形に変化が多く、変種ホソバシャリンバイ(オキナワシャリンバイ)やマルバシャリンバイ、モッコクモドキなどとして分けることもあるが、分類にも諸説あり、変種の分布状況ははっきりとはしていないらしい。
名瀬市誌によると、本種が大島紬の染料材として落ち着くまでには、さまざまな植物が試されたらしい。オヒルギ、ホルトノキ、シイノキ、ガジュマル、ハゼノキ、クチナシ等々。毎日、山々を巡り、木々を集めて煎じ、試験を繰り返した方々の記録が載っている。計り知れないご苦労の中にもワクワクとした喜びの瞬間もあったにちがいない、と思いたい。
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