ホエールウオッチングシーズンの本格化を前に、冬季に奄美近海に来遊するザトウクジラに関する講演会が23日、鹿児島県奄美市名瀬の奄美博物館であった。沖縄美ら島財団総合研究センターの小林希実さんが、クジラの生態など観察を楽しむための豆知識を紹介。繁殖海域で確認されている「ソング(歌)」と呼ばれるクジラの独特な鳴き声についての研究成果を報告した。
講演会は環境省の鯨類調査事業の一環で、奄美海洋生物研究会(興克樹会長)が主催。約60人が来場した。
興会長が奄美大島周辺海域の調査について報告。2019年シーズンのザトウクジラの出現確認数は前季より34頭多い733頭。ホエールウオッチング参加者も前季を751人上回る2936人で、いずれも過去最多だった。奄美空港(奄美市笠利町)の展望デッキなど、陸上からクジラを観察できるポイントも紹介した。
小林さんは、クジラの進化の過程や生態などクイズを交えて紹介。ザトウクジラのソングについては「繁殖海域ならではの行動」と説明。さまざまな音の組み合わせを一定の法則で繰り返す雄の鳴き声で、数時間歌い続けることもあるという。
同じ海域にいる個体同士では特徴がとても似ているが、最新の研究では、離れた海域でも特徴が共通してくる傾向がみられるとして、「互いに交流して音の交換や共有をしているのではと分かってきた」と述べた。
ソングの役割は雌への求愛のほか、雄同士のけん制や、距離を保つためと考察した上で、「確証がなく、よく分かっていない。今後も研究が必要」と強調した。
沖縄と奄美では「同じ個体群である可能性が高い」として、「協力して研究、調査を行い、ずっと見られる環境を一緒につくりたい」と呼び掛けた。