世界自然遺産登録1周年を記念したシンポジウム「自然×文化から見つめなおす~私たちが住む世界の宝・徳之島」(環境省徳之島管理官事務所主催)が9日、徳之島町生涯学習センター(同町亀津)で開かれた。約80人が来場し、世界自然遺産地域科学委員や島内自治体の学芸員など4氏が講演したほか、「徳之島の自然や環境文化の魅力と活用」をテーマにしたパネルディスカッションでは、島の自然と文化を生かした地域づくりの在り方について考察。自然環境の保全と自然との共存における「徳之島モデル」の構築を柱とする提言をまとめた。
講演の部では世界自然遺産地域科学委員から土屋誠委員長(琉球大名誉教授)のほか、委員の星野一昭氏(元鹿児島大特任教授)、山田文雄氏(沖縄大客員教授)が講師を務めたほか、天城町学芸員の具志堅亮氏が「徳之島の遺跡から探る人と自然の関わり」と題して調査内容を発表した。
土屋委員長は「陸水海の30%を人と自然の共生地域として守り管理する」「絶滅危惧種を守るための行動と人と野生動物の衝突回避を進める」などの目標を掲げた昆明モントリオール目標について紹介。徳之島においても「関係者、住民が一体となって『自然環境保全』と『人と自然の共存』のモデルを構築し、徳之島、琉球列島から日本国内、世界へ発信していく必要がある」と訴えた。
星野氏は奄美群島国立公園の特徴として、徳之島町の金見集落など国立公園内に計16の集落があることを紹介。浜下り行事やリーフでの採集風景など自然との関わりの中で育まれた生活様式や文化を、国立公園の付加価値となる「環境文化」として掘り起こし高めていく重要性を述べた。
具志堅氏は島内の発掘調査から見える食料事情の変遷について発表。約7千年前の人々はアマミノクロウサギやイノシシなどの陸生哺乳類を狩猟し、その後、魚類の食物利用が始まったことを伝え、「約千年前と比較的新しい時代まで狩猟採集の生活が続いたのは島の豊かな自然のおかげ」と説明した。
パネルディスカッションでは4氏に加え、県希少野生動植物保護推進員の池村茂氏と徳之島管理官事務所の田口知宏管理官が参加。「徳之島の自然と文化の魅力とは」「徳之島の魅力を未来へつなげていくために」をテーマに意見を交換した。
講演で徳之島と奄美大島のアマミノクロウサギは分断されて約10万年がたっていると説明があったことについて、聴講者から「分断による違いが確認されれば『トクノシマノクロウサギ』が誕生する可能性はないか」との質問があった。
それについて山田氏は「トクノシマトゲネズミの場合は染色体や体の大きさで奄美や沖縄の種と違いがある。クロウサギの場合は現在の知見ではそこまでの違いはないが今後の研究次第で可能性はある」と回答した上で、「そのような研究のためにも両島で保護していくことが重要だ」とまとめた。
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