コト

旧盆~冥界に一番近い島の、美しく温かい三日間~

「バアバ、おかえり」

奄美市名瀬に住むヤスダ家。
今年もまた、提灯やお花などを荷台に詰めて家族みんなで車に乗り込み、仏さんをお迎えに行きます。
お盆の初日である「迎え盆」は旧暦七月十三日。
今では本土のほとんどが新暦でお盆をしますが、島では他の集落行事と同様に旧暦で行います。

お墓に着いたら綺麗に掃除をしてお清めして、提灯に火を灯してお出迎えします。

提灯はユラユラと降りてきたジイジとバアバを家まで案内するカーナビのような存在。
ここから家に着くまでの行程は、寄り道は禁物。
ご先祖を道に迷わせる行為をしてはいけません。

無事お家に到着したら、仏壇に着座してもらいましょう。
今日から送り盆までの3日間は、精進料理や果物、お茶などを仏壇や盆棚にあげて、一緒に食事をします。

お盆の間は、霊が地上にたくさんさまよっているので、冥界との境である海や山に行くと、霊に引っ張られるので近づいてはいけません。
パパやママは親戚の家を回り、子供たちは家で宿題や自由研究をします。
日が暮れて親戚が集まったら、宴の始まり。
島のあちこちで、皆が居間でワイワイと過ごす声と、縁側で夜風に揺れる提灯の明かりが見られます。

「また正月、ここでね」

旧暦七月十五日。送り盆の日、ヤスダ家では代々「黒椀」をこしらえます。

「黒椀」とは、黒いお椀に入った汁のこと。奄美大島では、祝いの席などで必ず用意する伝統の汁ものです。
お椀に盛り付ける品は、七種。
「昔何が入ってたか忘れちゃったから、自分の今入れたいものを七種入れているんだよね」
テキパキと準備するパパが苦笑を浮かべながら教えてくれました。
「ホントはこんなの面倒なんだよね〜」
そんな言葉とは裏腹に。
碗を作るパパの指先には、もてなしの心と愛情が宿っているようでした。

『迎えは早く、送りは遅く』
夏の日差しもすっかり傾き、ジイジとバアバのお腹もいっぱいになったところで、いよいよ「送り」に出発します。
「迎え」と同じルートで、再びお墓に向かいます。

日も暮れてきた送り盆の墓地には、提灯を揺らす大勢の人たちで賑わっていました。
「ジイジ、気をつけてね」
お墓に着いたら見送りの言葉と一緒に、ジイジとバアバに今年最後のお供え。
ぜんざいや落雁やバナナを詰め合わせた、小さなお弁当でした。
「お空に行くまでの道のりでお腹が空くといけないからね!」

㈱しーま 編集部ライター 竹内聡

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下戸口集落民族 灯り持ち/ゆりむん(漂流物)収集家。
造園の大学を卒業後、営業マンとして関東を奔走していたが、「結い」という呪いに導かれて移住。地元ラジオ局で島の酸いも甘いも辛いも知る。
現在は黒糖焼酎の酒造会社に携わりつつ、観葉植物制作、イラストレーション、ライティング、観光ガイド等なんでもやる『branch design TOKONOMA』を設立。
自らを表現しつつ島をデザインで仕立てる、奄美で最もこだわりのない制作者。

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