海の生物多様性の保全管理と集落(シマ)暮らし体験とを併せた観光メニューの開発を目指す鹿児島県宇検村は9日、日本自然保護協会(NACS-J、亀山章理事長)と平田集落でモニターツアーを実施した。村外参加者と案内役の地域住民、専門家ら約30人が参加。干潟の生物調査や集落散策などを通し、地域資源の保全と活用の両立を模索した。
同村は、2030年までに陸と海の30%以上を保全する国際目標「30by30」を踏まえ、23年度からNACS-Jと共に海域の管理ビジョン、保全と利用の在り方を定める「里海づくり事業」を進めている。モニターツアーはその一環。観光基本計画における集落暮らし体験のメニュー化と掛け合わせて検証が行われた。
ツアー名「ゆかいなオジたちと行く! 平田集落入門編 干潟の貝のモニタリングと集落歩き」の通り、案内役は地元のオジ(年配の男性)6人が務めた。集落散策は「神道を歩く」をテーマに、真平田守護神を祭る「ヘダンジャラのほこら」や神山と呼ばれる「イジュミの山」、ナーガキ(石垣)など解説を交えながら巡った。
干潟でのモニタリング調査では、講師に日本貝類学会会員の川上晃生さん、奄美海洋展示館学芸員の高村洸介さんを招き、集落海域に生息する貝類などの生き物を調べたり、今と昔の環境変化などについて語ったりした。
昼食には、地元のオバ(年配の女性)の手作り料理が振る舞われ、奄美市から家族で参加した幼児(5)は「シシカレーがおいしかった。貝探しも楽しくて、初めて来た場所だけどまた来たい」と笑顔。
案内人の新元嗣道さん(74)は「平田には紹介できるものが少ないと思っていたが、参加者が興味深く集落内を巡る姿を見て、改めて地域の価値に気付かされた」と話した。
ツアー参加者には後日、オンラインでヒアリングが実施される。NACS-Jの中野恵さん(48)は「科学的、理論的に正しいことが、地域住民にとって正しいとは限らない。焼内湾のように自然と人とがつながって生きてきた海においてはなおさら。みんなが『大切にしたい』と思える海の保全、利用の在り方を築いていきたい」と述べた。