NPO法人奄美食育食文化プロジェクト主催のシンポジウム「奄美学 その地平と彼方(かなた)」が10月23日、奄美市名瀬の市民交流センターであった。民俗学者山下欣一氏の一周忌を前に、研究者や伝統文化の保存、継承に取り組む関係者らが「シマとは何か」「文化を次世代へつなぐには」などについて討議。関西学院大学大学院の島村恭則教授が講演し、「内と外の視点から奄美を考え発信する『現代奄美学』の樹立を」などと提言した。
山下氏は1929年、奄美市名瀬出身。奄美のシャーマニズム研究の第一人者で、奄美の人々が自らシマ(集落)に根差した価値観や世界観を見詰め、奄美とは何かを探る「奄美学」を提唱。民俗学分野に多大な功績を残した。
島村教授は講演で、山下氏の人物像や功績を紹介。「奄美の内側からの発見や考えを重視すると同時に、グローバルな視点も持ち合わせていた」と評価し、「奄美の現在や未来を考える上でも、『現代奄美学』として山下氏の教えと地元の活動を深めていってほしい」と語った。
講演に続いて「シマは奄美の人々の原点」の題でパネルディスカッションがあり、同プロジェクトの久留ひろみ理事長をコーディネーターに島村教授と瀬戸内町立図書館・郷土館の町健次郎学芸員、龍郷町秋名アラセツ行事保存会の窪田圭喜会長、大和村国直のNPO法人TAMASUの中村修理事長、山下氏が結成した「奄美民俗談話会」元事務局長の山岡英世氏が意見交換した。
窪田会長は文化継承に向け、口語で伝えられてきた地域のしきたりなどを文章化していることや、保存会に20代、30代の若手メンバーが参加していることなどを紹介。中村理事長は地元の自然、文化、コミュニティーなどを観光に活用することで、利益を上げながら持続可能な継承に取り組んでいると話した。
町学芸員は「シマ」という言葉に着目。「『シマ』は『白黒はっきりさせること』という解釈ができる。シマをキーワードに鹿児島県全体を見渡すと新しい発見があるのではないか。国直のTAMASUの取り組みのように、外部との関係性において自らを語る形が増えれば」と期待した。
久留理事長は奄美群島で水神を祭るユタの儀礼の調査を行った経験から、「シマはその人の魂の帰る場所と考えられ、このことからシマが重要視されるのではないか」と話した。
奄美博物館の久伸博館長はビデオメッセージで「集落行事が近年は行政任せになり、住民の当事者意識が薄れたことで人々の知恵や知見も失われてきているのではないか」と問題提起した。
会場から「奄美学とは学問なのか、住民の学びなのか」という問い掛けがあり、島村教授は「最近はアカデミーと民間で学びの垣根はなくなっている。学びを地域で育てることを実践した山下氏は当時の最先端と言える」と述べた。
シンポジウムには156人が参加。山下氏をしのび、開催を前に来場者全員で黙とうをささげた。
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