ヒト

ハブ研究の服部さんに聞く 東大医科学研究所で40年

毒蛇ハブの研究で知られる農学博士の服部正策さんが3月、東京大学医科学研究所奄美病害動物研究施設(鹿児島県瀬戸内町須手)を退職した。奄美の動植物をつぶさに調査し、地元の専門家として奄美・沖縄の世界自然遺産登録に向けた取り組みに貢献。地域住民に島の自然の価値や面白さを伝え続けた。赴任して40年。奄美への思いを聞いた。

―40年を振り返って、今思うことは。

「一番は奄美に来てよかったということ。フィールドが近く、森に入ると本土とは全然違う生き物がいる。動物の数も種類も多く、生き物好きにはとても楽しい島。研究者としていろんなことを学べた」

―特に印象に残るのは。

「ハブの研究事業で、奄美大島と徳之島でいろんなことを調査する機会に恵まれた。ハブを捕獲している人や、保健所、研究調査をしている人との付き合いができた。集落周辺のハブが多いということで、電気柵を張り巡らせるなどして、集落の人との付き合いも深くなった」

「研究者だけでやっていると、地元の人の考えとか、行動とか、いろんなことが見えてこなかったと思う。住んでいる場所も、育ってきた環境も違う人たちと話していると、思いがけないことがいっぱいある。本当に面白いし、ためになった」

―ハブ研究の成果は。

「咬傷(こうしょう)被害を防ぐには、個体数を減らすことが一番。でも、捕ったところで簡単には減らない。捕獲されたハブのデータと、集落や学校にどのくらいいるか。そういう情報を提供して、正しく理解して怖がり、防御体制を取ってもらう。ハブとの共存を図るしかないという結論にたどりついた」

「いずれハブの本を書こうと思っている。いろんな人から話を聞いて、自分でも見てきて。ハブのことはとことんやった。僕の記憶が薄れる前に、何らかの形で残しておきたい」

―精力的に奄美の動植物の調査を続けた。

「ハブ以外の生き物は全部趣味(笑)子どもの頃から好きだったから。その趣味が、世界自然遺産として話題になったときに生きてきた」

「人との付き合いが増えて情報が入り、たくさん刺激を受けて、新しい発想にもつながった。ハブの研究だけでは到達できなかった。山を歩いて、とことん趣味をやりあげてよかった」

―奄美の世界自然遺産登録に向けた取り組みに、地元の専門家として深く関わってきた。

「奄美の目玉は、個々の動植物とその数の多さ、広がり、複雑さ。世界でここにしかいない種類だらけ。1千万年くらい前、世界中の今の動植物の進化が始まる段階で、島として切り離されている。そういう島は世界にない。世界自然遺産にする価値は十分にある」

―新型コロナウイルスの影響で、奄美・沖縄が審査予定だった世界遺産委員会が延期になった。

「いつまで延期か、どうなるのか全く分からない。IUCN(国際自然保護連合)の評価も先送りという情報で止まっている。その間に調査などを進められないかと思ったら、人が集まれず、会議も開けない。僕らの活動も止まっている状態」

―最後に、奄美の人々へ伝えたいことは。

「奄美は今まで通りでいい。コロナが収束して、自然遺産に登録されて、どばっと人が押し寄せてきたらどうなるか。心配なところもある。今までのように、静かで穏やかな島であればいいなあと心から願っています」


島根県出身。農学博士。1980年東京大学医科学研究所奄美病害動物研究施設に赴任。2014年3月に准教授で退官後、20年3月まで特任研究員。毒蛇ハブをはじめ奄美の野生生物の研究を続ける。奄美・沖縄の世界自然遺産候補地科学委員会委員。67歳。

南海日日新聞〔写真〕東京大学医科学研究所奄美病害動物研究施設を退職した服部正策さん

南海日日新聞〔写真〕東京大学医科学研究所奄美病害動物研究施設を退職した服部正策さん


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1946年(昭和21年)11月1日に奄美大島で創刊された奄美群島を主要な発行エリアとする新聞。群島民挙げて参加した日本復帰運動をリードし、これまでにシマの文化向上・発展のための情報を伝えてきた。
現在も奄美群島の喜界島、奄美大島、加計呂麻島、請島、与路島、徳之島、沖永良部島、与論島の8島を発行対象とし、その地域のニュース・生活情報を提供。現在、奄美出身者向けに奄美のニュース(本紙掲載)を月1回コンパクトにまとめた情報紙、「月刊・奄美」も 発行している。

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