鹿児島県奄美大島で晩年を過ごした日本画家、田中一村の未発表作品が奄美市名瀬で新たに9点見つかり、9月22日から同市笠利町の県奄美パーク・田中一村記念美術館で一般公開される。同館の宮崎緑館長は「11日の一村忌を前に新たな作品を発表できるのは大きな喜び。奄美で独自の画風を築こうとする過渡期のもので、今後の一村研究にも重要な作品だ」と語った。
田中一村(本名・田中孝)は栃木県出身。1958年12月に50歳で奄美大島に移住し、69歳で死去するまで、奄美の草花や生き物をテーマに作品を描き続けた。
見つかった未発表作品は「南画」と呼ばれる水墨画や、奄美の風景などを描いた色紙9枚。所有者で真宗大谷派大島寺(奄美市名瀬)住職の福田恵信(けいのぶ)さん(56)によると、絵は先代住職で一村と親交の深かった父 恵照(えしょう)さんが生前、一村から「絵の手本に」と託されたという。
恵信さんによると、恵照さんは一村が奄美に来る数カ月前に辞令を受けて福岡から奄美大島へ移住。地元の旅館などで生け花を指導していたところ、作品を見た一村が訪ねてきたことから親交が始まったらしい。
作品は2012年の恵照さんの没後、所在不明となっていたが、恵信さんが21年に書斎の本棚を整理した際、茶封筒に入った色紙を発見した。封筒には「昭和35年頃画ノベンキョウシナサイト見本ヲ書イテクレタ 田中一村(孝)ノ画」とメモがあり、恵信さんは「父が話していたことと一致する」と、真筆であることを確信した。
9枚のうち7枚はさまざまな画風で描かれた南画で、制作年は不詳。ほか2枚は一村が奄美に来て間もない1960年頃のものとみられ、高倉を描いた風景画もあった。いずれも印や署名はないが、同美術館の歴代学芸専門員らで構成する県田中一村記念美術館特別企画運営委員会(会長・宮崎館長)は筆致などから9作品すべて田中一村の作品と認定した。
同館の有川幸輝学芸専門員は「さまざまな画風を描き分けており、一村の実力を示している。奄美で生活していく方法を模索していたことがうかがえる」と評価した。
田中一村記念美術館は年に4回、作品を入れ替えながら常時約80点を展示している。今回見つかった9点は同館が寄託を受け、12月20日まで一般公開する。福田さんは「一村さんの息遣いまでもが感じられるような作品。ぜひ多くの人に見てもらいたい」と話した。
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