北海道大学大学院の金城達也専門研究員(39)と、北星学園大学の寺林暁良専任講師(39)は「自然資源管理と地域再生の一体的な展開-奄美市打田原集落におけるソテツ林管理の事例から」と題した論文を発表し、昨年12月発行の環境専門誌「環境社会学研究」第28号(環境社会学会)に掲載された。2人は同市打田原集落のソテツ林再生とソテツを利用した地域再生に着目。「地域社会の持続可能性を高める取り組み」と考察した。
2人は耕作放棄地の増加や里山の荒廃など「過少利用問題」研究のため、2014~20年、打田原集落を訪ね、ソテツの利用状況について聞き取りを含めて実態調査を実施。打田原集落以外にも足を運んで論文をまとめた。
論文は▽奄美大島のソテツをめぐる状況▽打田原集落のソテツ利用とソテツ林の荒廃▽打田原集落事業部による集落再生事業▽ナリ事業の成立と展開▽考察-自然管理と地域再生を一体的に展開する意義-などで構成した。
論文によると、打田原集落を含めて奄美大島北部のソテツはほとんどが人の手で植えられたとみられている。1960年代頃まで食料や肥料、防風防潮など多様に利用されていたが、島民の生活様式に伴い、過少利用資源となった。打田原集落では放棄されたソテツ林にネズミが増加。ネズミを狙うハブも増え、住民生活に危険を及ぼすようになった。
転機となったのが2000年代、集落出身者がUターンしてきたことだった。05年にUターンした和田昭穂さん(90)は翌年、集落会長に就任。打田原交流館の整備を機に、集落財政の改善やソテツ林の再生、景観再生・環境美化に取り組むことになった。
その後、集落会は環境美化活動として取り組んだ海岸清掃で集めた流木を利用して製塩事業を開始。「打田原のマシュ(真塩)」として売り出したところ、地域の特産品となった。次に取り組んだのがソテツ林の再生。女性グループが中心なって事業部を立ち上げ、奄美市の補助事業も導入してナリ(ソテツの実)を利用した商品開発を進めた。事業部は「打田原マシュやどり」を開設。天然塩やソテツ商品の販売を手掛けている。「ナリが宝になった」(住民)
2人は「打田原集落はソテツ林管理を地域景観の荒廃や集落の財源確保、高齢者・就労準備者の仕事・居場所づくりなど、さまざまな課題解決を目指す集落再生事業の一環として取り組んだ」と指摘。「自然環境管理についても、その位置付けを地域社会の中で相対化し、地域社会の持続可能性を高める取り組みと一体的に展開していくことが求められている」と問題提起した。
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